第4回 わが愛馬コイントス考

 NHKマイルカップに寄せられた競馬狂の方々の予想を見ました。ぼくに幸いだったのは、その予想をついホンのちょっと前、午後4時過ぎに見たことでした。大外れなのね・・うふっ!

 クロフネが来て、グラスエイコウオーが来て、その次にはサマーキャンドルが入ってました。これじゃあね、予想が外れても誰も文句は言えません。悪いのはきっと、厩舎の連中か、予想通りに走ってくれなかった馬なんですよね・・・皆様に言わせると。

 しかし、「京都新聞杯でのコイントスが、あのザマだったのだから」とか、「毎日杯でのクロフネが5馬身先着といっても2着があの弱いコイントスだったから当てにならない」とか、そういう言い方はないんじゃないの。
 同じ予想をするのでも、もうちょっと紳士的にやってほしかった。

 風元センセイなんか、「細く、長く、セコく生きる馬」なんてマジに言うんだものなあ、POGとはいえ、馬主としては怒るよ、ホント。

 いいよ、NHKマイルカップでどんな予想をしても・・・でも、結果はきっと外れだったはず。
 ヒトの悪口言ってたから、そういうことになるんだ。
 天に唾するってやつね。

 そこで、ぼくは5月5日のスポーツ紙をジックリと読んでみた。コイントスが負けた翌日の新聞だ。
「どうしたんだろう、なぜ、走らなかったんだろう?」と疑問に思うと同時に、心配にもなったからだ。
 分かるね? この心境。

 しかし、新聞を読んだ結果、ぼくはホッとした。
 競馬担当記者の推理と厩務員の言い訳によると、「コイントスがまるで走らなかったそもそもの原因は、東京から京都に輸送する際に交通渋滞に巻き込まれ、3時間も4時間もロスしたから」とある。
 それで走る気を無くしたコイントス・・・その気持ちが、ぼくには良く分かった。同情の念と、そうした自分の気持ちを素直に出してレースをすっぽかしたことに、感動すら覚えた。

 そうだよねえ、あの日の名神の渋滞はひどかった。
 ぼくは3日から京都に出張していて、関西方面の交通事情をよく知っていた。なにしろ、大阪の USJ目指して、ものすごい数の観光客が押し寄せていたんだ。それで京都のホテルも満杯。こっちも仕事どころじゃなかった。
 なぜかって、ホテルの空きがひとつもないんだから・・・午後10時半だよ、キャンセルが出たおかげで、ようやくぼくらが部屋にありつけたのは。

 ぼくがその夜、ホテルの部屋で自棄酒と Pay TV観賞で自らを慰め、疲れを癒している頃、わがコイントスは、馬房の中で眠れぬ時間を過ごしていたんだ。
 そして内心では、「やってらんないよ」とフテていたはずだ。一番人気? それがなんだ、おれは疲れてるんだ。酒もってこい。

 次の日、ぼくは二日酔いの頭を抱えながら仕事をした。ゴールデンウイークで人様が浮かれている最中に仕事をした。そのくせ、相手は留守で連絡すら取れないときている。
 手抜きをしたくなってUSJまで出かけた。ものすごい行列で何も見ることはできなかったが、それでも休日気分は十二分に味わえた。

 その時間、コイントスも仕事に駆り出されていた。しかし、前日の輸送による疲れは取れていなかった。気分は最低。
「こんな時に走るのはバカだよ」と思っていた。そこで決心した。「やっぱり走るの、やめた」。
 適当にやって、無事に厩舎に帰れたら、それで充分じゃないかと思った。無事、これ名馬・・・。

 11着。よく走ったじゃないのよ、と、ぼくは思った。
 馬券は買っていなかったから気楽だった。京都ではどこで馬券が買えるのか知らなかったのが幸いした。東京の木下君の携帯に電話をしたが、2度とも繋がらなかったのが幸いした。
 万馬券が出たと聞いてもなんとも感じなかった。1万円儲けたと思った。

 コイントスは偉い。やる気が出ない自分の気持ちに素直に従ったところが尊敬できる。サラリーマンだったら、こうはいかない。
 それと、ぼくが馬券を買っていないときに、怠けたのが凄い。細く長くどころか、彼はむしろ図太い神経とPOGを思いやる温かい心の持ち主だったのだ。
 そんなコイントスが次に走るときは、ぼくが馬券を買ったときである。もちろん1着。お前の才能を軽く見た連中に一泡吹かせてやるんだ。そして・・・いつかUSJに行くのだ。

 で、今日のレース。
 おかげでぼくは、使わなかった1万円の中からNHKマイルカップに5000円をつぎ込むことができた。馬連4・13を1点、ワイドを4流しで4点買った。4・8と4・14の2点が入っていた。

 コイントスがぼくに幸運をもたらせてくれたのである。
 それと、「もきち倶楽部」の予想を事前に見なかったことは、実に、実にラッキーだったと、心底から思っている。