第7回 ただ、とりとめもなく・・・

 大井トゥィンクルが終了した。
 4月10日から11月4日までの間に、13開催75日。仕事とはいえ、皆勤するのはそれなりに体力と気力がいる。毎年終わった晩は、だいたいふうう・・とため息をつく。とりわけ今年は、最終開催に、皇太后葬儀で中止になった一日が追加され、これまで例のない「7日間連続」という強行スケジュールになった。

 大井町あたりで大酒を飲む元気もすでになく、一路帰宅(京急、山手線、井の頭、京王線を乗り継ぐからけっこう大変)。午後 11 時半、たどりついたアパートで一人、「いいちこ」をしみじみ飲った。自分をほめてやりたいとか、瞬間的に思いつつ・・。が、そのうちそれがキイてきて、逆に自己嫌悪にも陥った。今年に限ったことではないけれど、75日、誇れる予想はほとんどなく、もちろん自慢できる収支にもならなかった。

「朝から晩まで働いて、逆にお金を払う職業ってなーんだ」
 このナゾナゾは、私のような人間にそのままぴたり当てはまってしまう。

 大井トゥィンクル。いうまでもなく今年の営業成績はよくなかった。入場人員 81%、総売り上げ88%(いずれも昨年対比)。
 ただ、私の目分量ではもっと悲惨なように感じていて、だからこの数字を聞いて、むしろ胸をなでおろした。
 場内は正直、閑古鳥が鳴いていて、かつてうざったいほど若いファンがあふれていた内馬場なども、警備員さんが所在なげに腕組みしていたりする。
 売上げ減がこの程度で止まったのは、大井のレースを川崎、船橋、浦和、さらに上山、新潟で売ったりする相互場外、そして電話投票がカバーした結果らしい。地方競馬の場合、まだ開拓されていないスペースがあり、そこを埋めにかかったという部分もある。
 そういえば先日の「天皇賞」は、売上げ前年対比75%と聞いた。テイエムオペラオーがいかに強いか、内国産でいかに価値があるか、それを言っても、もう説得力がないのだろう。”世間”の競馬に対する関心、興味が、いつの間にか冷え切ってしまっている。

 正直この現象は、もう”不況”だけでは片付けられまい。
 なるほど、みな生活に余裕がなくて、小遣いが減って、それで競馬にお金が回らなくなった。
 確かに一因だが、それならパチンコ屋の盛況は何だろう。立会川駅前、大井競馬場近くの何とかパーラーは、いつも開き台がないほど老若男女であふれかえっている。
 いうところのギャンブル産業がすべてワリを食っているのではないということ。競輪、競艇、オートレース、誰かに自分の運を賭ける、そういう群集ギャンブルが、みんなにソッポを向かれている。この分析は、私などには手に余る。理由も、因果関係も、説明できない。
 たとえばオグリキャップのようなヒーローが出れば、それがそのまま起死回生の突破口になるのかどうか。わからない。いずれにせよ、今の競馬に、”浮動層”を引きつけ、定着させる実力がないことだけは事実である。

 「キムタクが競馬をダメにした」と、憤慨した友人がいた。
 昨年JRAが流したテレビCM。「♪メスと呼ばないでぇー、えー」などという一連のシリーズ。当時私など、これを見るたびクスリと笑ってしまって、拒否反応もなかったのだが、やはり怒る人は怒るようだ。
「だってさ。自分たちが長いこと愛してきた競馬が、手の平を返してバカにされたような気がするじゃないの・・・」。
 これはたぶん、スマップが好きか嫌いとか、そういう問題ではないのだろう。キムタクは仕事だから、頼まれればやるしかない。しかしJRAの戦略は、とんちんかんだった。そういうことか。
 企業としてどこを主要なターゲットにするか、それがとんでもなく的外れで、結果売り上げを減らしてしまった。若年層を開拓したいのはわかる。しかし彼らの趣味におもねろうとするのは、逆効果だった。
 誤解を恐れず書けば、競馬とは実にもう保守、古臭いばかり、しかしそこがいいという世界である。だから現実(たとえば優勝劣敗)を若いファンに伝え、さあどうだというフトコロを、ごく自然にみせればいいのだ。妙な小手先勝負は株を落とす。

 ともあれ大井競馬場、つい先日主催者サイドに聞いた今後の展望は、まだそれなりに元気だった。これはそこに寄生する我々とすると、正直大いに心強い。
 インサイドの情報だが、再来年秋からスタンド改築が開始されるとのこと。大井は年間ほとんど休みなく開催され、リニューアルのタイミングが難しい。スタンドを新増築し、それをファンの正面に構えるには(現在やや角度がある)ゴール板を移動させる必要があるそうで、そうなると簡単な工事ではすまなくなる。
 いずれにせよ、この競馬場は、もう十数年もスタンドはじめ根幹の設備に手を入れていない。老朽化してガタガタで、消防庁あたりから「改築勧告」が出ていたも聞いた。
 地震も津波も、フィールド的には無視できない。もうひとつ。たとえば東京競馬場は、広々としたコースと長いスタンド、それで十分なのだが、都心のベイサイド・大井競馬場で開催するトゥィンクルは、もう少し色気がほしいという命題が常にある。

 「日本ブリーダーズカップ」の大井開催が来年 11 月に決定したらしい。うまく回転すれば、おそらく岩手・盛岡競馬場との相互開催になるのだろう。楽しみである。楽しみだけれど、さて出走馬やらレース形態やらが、現実的にはどうなるのか、まだ曖昧模糊としている。
 そういえばその前、すぐそこに東京で「ジャパンカップ・ダート」がある。この結果が、ひとつ日本の競馬の行く道を、占うことにもなるのだろうか。

 「サンケイスポーツ」に発表された「00トゥィンクル・ベストレース」は、ベラミロードの「東京盃」ということである。
 なるほどしかり。確かに鮮烈そのものの逃げであった。日曜日の「根岸ステークス」は、迷いのない馬券が買えそうで゜、久々にすがすがしい気分である。まったくセンも根拠もない話だが、この馬など、先ごろ引退表明の佐々木竹見騎手に乗せてみたいタイプである。風のようにビューっといって、そのままゴールを駆け抜ける。10日、川崎競馬場で記者会見があるらしい。この件については、次の機会にまた書かせていただこうと思う。