ノートの6:競馬雑録(13)

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 ネヴァーセイダイのたてがみ
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 今年(1973年)の日高のアラブのセリを見に浦河に行ったときに、日本中央競馬会の日高育成牧場の田口さんに面白い話をきいたので、次に紹介してみようと思う。
 その前にぜひいっておかなくてはならないことは、田口さんは、たびたび外国にも行き、英会話はなかなかたっしゃだということである。

 田口氏が数年前英国に行ったとき、なにかの機会で、ナショナル・スタッドの場長ダグラス・グレイ氏と会食をしたのだそうである。そのときに、場長にきいた話だという。

 この場長は、この前の戦争のときにビルマ戦線でひじょうに活躍したのだそうである。そしてあのクワイ河マーチという曲は、日本では、ひじょうにポピュラーになっているそうだが、実はひじょうにひわいな文句の歌だという。
 田口氏が、ネヴァーセイダイの産駒の種牡馬は日本にはたくさんいて、いずれも日本のサラブレッドの改良にひじょうに貢献しているという話をしたところ、では記念に良いものをやるといって、ネヴァーセイダイのたてがみから、数本の毛をぬいてくれたのだそうである。

 この話をきいて、わたしがニューマーケットのジョッキー・クラブの本部のなかにはいったことがあるかと、田口氏にたずねてみたところ、ないというので、あそこにはエクリプスの尻尾の毛が、額のなかにおさめられて飾ってあるといったところ、じゃ自分もネヴァーセイダイの毛を額に入れて、大事にしておきたいといっていた。日高育成牧場を訪ねる人は、田口さんに、これを見せてもらうとよいと思う。


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 赤旗の競馬欄
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 ………さらに、紺野局次長は続ける。
「ゴルフの次は競馬が問題になるが、美濃部さんともども、われわれはギャンプル反対であります。今のところ扱いませんが、読者の要望もあり、検討中といったところ。株式欄?、党としては、利得で生活する生き方は、認めておりません。
…」

 以上は、週刊朝日(昭和48年10月12日号)にのった「値上げ後の赤旗にはゴルフ記事もございます」という見出しの記事からとったものである。つまり赤旗に競馬記事をのせるかどうかは、目下検討中ということである。

 さて、もし赤旗に競馬記事がのるとなったら、赤旗の競馬記者を、競馬記者クラブに入れるか、入れないか等と問題になるであろう。保守的な競馬の社会のことだから。


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 競馬評論家の無知
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 わが国で競馬評論家といえば、いわゆる評論をする人でなく、競馬の予想をする人のことである。こういった競馬評論家によって、予想を主にした本は、たくさん出ているが、これらの本を読んでみると、これらの人たちが意外に競馬の実態を知らないのに驚くのである。

 先日も、最近出たこの種の本を読んでみて、ますますこの感を強くした。特にあらさがしをしようというのでなく、ほんとうのことを知ってはしいという意味で、おかしな個所をあげてみよう。

「アラブ競走に出走できる馬は血量検査でアラブの血が25%なければ出走できないことになっている。」
 これはいかにもおかしい。「血量検査で」などというと、なにか検査でもあるようだが、こんな検査は別になく、血統証明書によって血量を計算するだけなのだ。

「イギリスでは、高僧になるよりもダービーオーナーになりたいとまで言われているが、」
 高僧なんていうのは、初めてきいた。宰相のまちがいだ。これは誤植ではないであろう。

「あるいは裸馬(蕃殖馬)として、子孫を繁栄させるために、牧場へ帰っていく。」
 裸馬に「はだうま」とルビをふっている、のは、まちがいで、これなら「はだかうま」になる。「はだうま」は、漢字をあてるなら、肌馬であろう。


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 服色のわかる洋書
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 さきどろ入手した競馬に関する洋書を一冊紹介しよう。
  The Benson and Hedges Book of Racing Colours, 1973 、出版者は The Jockeys's Association of Great Britain である。定価は10ポンド、21 × 30 センチ、340頁の大部の本である。これは普及版で、革表紙の特製本も出ている。

 この本は、英国において登録された馬主の服色を、原色のままで記載したものである。だいたい9000ほどの服色が、1頁に30の割合で記載されている。
 外国の競馬のことだが、いろいろな服色があるので、暇なときに頁をくっていると、いつまでも見あきない。
 馬主の名前のABC順に配列されていて、巻末にはその索引がついている。ABC順といっても、いちばん最初はエリザベス女王の服色、次はクイーン・マザーの服色がのっている。

 これによって女王の服色を、ちょっと説明してみよう。
 英文では次のようになる。
  Purple, gold braid, scarlet sleeves, black velvet cap with gold fringe.
 翻訳すると、紫、金モール、排そで、金色のふさ飾りつき黒帽。

 胴が紫で、胸に金モールがつき、緋色のそで、黒い帽子のあちこちに金色のふさがついている。
 金色のふさは、王室を示すもので、クイーン・マザーの服色にもついている。

 わが国の馬主でも、えりも牧場の山本さん、新堀牧場の和田さんの服色などが出ている。
 わが国でも、このような本が出てはしいと思うが、とても不可能であろう。馬券のファンは、たくさんいても、このような本を求める競馬ファンは、はとんどいないだろうからだ。これが、わが国の競馬の体質というものであろう。このような本が、出版されるようになって、はじめて日本の競馬も欧米なみの競馬になったといえると思う。

「一馬」の出版者の中内さんの二世の中内さんが、わたしにこんな話をしてくれた。
 中内さんもこの本を買って、自分のところでぜひこんな本を出したいと、おやじさんに相談したところ、一言のもとに、そんな本が日本で売れるかと反対されたという。もっともなことである。

 だが二世の中内さんは、英国の本のように、あんなに立派な本でなくとも、なんとかして出したい、馬主の半分が買ってくれれば、1000部は売れるからソロバンは合うのにといかにも残念そうに言っていた。


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 八百長騎手には厳罰を
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 10月15日付の各新聞は、藤本勝彦騎手が八百長を自白したことが報ぜられている。
 この際主催者に望みたいことは、八百長をやった者に対しては、厳罰をもって望みたいということである。

 数年前に、これもやはり中央競馬の騎手で八百長をやり、免許がとりあげられた山岡騎手のことが、一昨年だったか某紙にのり、その後は改俊の情が著しく、後援者によって中央競馬への復帰がはかられているということであった。

 わたしは、この記事を見て、中央競馬が、山岡の復帰を許すようなことは、絶対あってはならないということを書いたことがある。
 なぜかというと、そんなことをしたならば、騎手たちは、安易な気持で八百長をやるようになるからだ。
 八百長でもうけた金で、四、五年謹慎していたら、また騎手になれるなどということが許されてはならない。本人には気の毒かもしれないが、これは身から出た錆である。あきらめてもらうより外ない。
 だから、今度の藤本騎手の場合も、おなじことである。

 数年前に、ある専門紙に「批判の対象は主催者に限る」という意味の記事が出たので、わたしはこれはおかしい、競馬の新聞なら、批判の対象は、競馬の関係者すべてでなければならない、と書いたことがある。この記事は研究ノートのどこかにはいっているはずである。

 取材の関係からであろうが、専門紙にかぎらずスポーツ紙でも、厩舎関係者に対しては、あまり批判をしたがらないようだ。

 こんどの藤本騎手の八百長についても、ふつうの日刊紙が、大きくとりあげているのに反して、スポーツ紙は、たいていは、あまり大々的にとりあげていないことは、やはりこの間の消息を示すものであろう。スポーツ紙こそこんどの問題など大きくとりあげてほしかった。

                    (昭和48年10月15日)